抱き枕の恋ごころ

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 毎日、すっかり日が高くなった頃目が覚める。仕事が夜中過ぎまでなので自然とこんな生活になった。翔太郎はうーんと伸びをしてベッドから降りると、斜めにしか開かない窓を開けて空気を入れ替える。  小さな窓から見下ろす通りは、夜中の喧騒が嘘のように静まっている。時折足早に通勤のサラリーマンが通り過ぎるくらいだ。  ボロボロになったとき、『オリーブ』のママに拾い上げてもらい、なんとか人間らしい生活を取り戻した。簡易的に用意してくれた店の上の倉庫が思いのほか居心地が良くて、ママに追い出されないのをいいことに少しばかりの家賃を入れて、なんとなく今でも住み続けている。  数年前の自分には全く想像ができなかった現在の生活。  あの頃の自分が、一番軽蔑しているような人種に成り下がったのだが、今となっては以前のスカした自分をクソだと思っているので気にはならない。自分で言うのもなんだが、本当に嫌な奴だったと思う。  世の中はうまくできているもので、翔太郎はそれなりの制裁を受けたのだと思う。だがほとんどのものをなくして振り返ると、今まで何に執着していたのか具体的に出せない程、あっけないものだった。  浩明はあれきり店に顔をださなかった。  ママの話によれば、浩明は相手が見つかればパタッと来なくなり、また新しい相手が必要になると来店するらしい。海外勤務の一時帰国の際もだいたいそんな流れだったそうだ。 ということは、この間ママが言っていた若い相手とうまくいっているのだろう。
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