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ゲイコミュニティとしての『オリーブ』のあり方は、とてもいい立ち位置を保っていると思う。ママの意志は、真面目に相手を探したい人の力になっていると思うから、自分も出来る限り、その手伝いが出来ればと考えている。
だが浩明のこととなると生々しさのほうが先立ってしまい、どうしても冷静に考えることができないのだ。
翔太郎の知っている浩明は、顔立ちこそ昔からきれいだったものの、それは決して目立つタイプでもなく、ごく真面目な高校生だった。
むしろ表向き明るくて人気者のさわやかイケメンと騒がれていた翔太郎と、地味で真面目な浩明がどうして親友なのかと、訝る友人もいたくらいだったのだ。
だからママから浩明が非常にモテるうえに、性に奔放なタイプだと聞いて、翔太郎の知っている浩明となかなか結びつかなくて困惑したのだ。まあ、翔太郎がそんなことを考えていると浩明が知ったら、余計なお世話だと一蹴されるのが落ちだろうが。
「翔ちゃん、ちょっと頼まれてくれる?」
出勤後の掃除を終えると、ママに正月用に提供するお屠蘇をつくるから、薬局で屠蘇散を買ってきてくれと頼まれた。掃除用の洗剤も減っていたからちょうど良かったと、制服の上からダウンジャケットを羽織り裏口から店を出ると、ちょうど表看板を立てる辺りに浩明が立っていた。
会うのは一カ月弱振りくらいだろうか。コートを羽織ってポケットに手を入れているものの、その姿は寒そうだ。年末の刺すような冷たさは、少し立ち止まっているだけでもきついものがある。
「突っ立ってないで、入れば?」
声をかけると、驚いたように振り向いた。
不意を突かれた様子の表情はあどけなくて、昔の浩明の面影を思い出す。
「あ……翔太郎。店、まだだよね。ちょっと早く着いちゃって」
「あと少しで開店だし、浩明ならママも喜んで入れると思うよ。今声かけて来る」
「悪い……」
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