抱き枕の恋ごころ

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 浩明を店内に案内し、再び買い物に出た。クリスマスの喧騒も終わり、今度は師走も大詰めの忙しなさで人々は動いてゆく。その波から一歩引いたところで街を眺めると、自分だけが別世界にいるみたいだった。 「ただいま戻りました」  店に戻ると、開店直後の店内は数人のお客様がいて、カウンターに座る浩明に話しかけるタイミングを計る様が目に付いた。 「翔ちゃん、ありがとう。ちょっと浩くんのお相手していてくれる?」 「はい」  カウンターを出て、フロアーに向かったママと入れ違いに中に入ると、浩明は既にくつろいで飲み物を飲んでいた。 「久しぶりだね。もう仕事は終わったの?」 「うん、昨日が仕事納めだったんだ」 「ふーん……で、この間の男は?」  浩明はちらっとこちらに目線を寄越し、面白くなさそうにふいっと下を向いた。 「帰省してる。実家がすごく厳しいんだって」 「そっか……そりゃ、寂しいな」 「別に。つきあってたわけじゃないし……そんなの止める権利もないからね」  だが、言葉とは裏腹に、浩明が寂しそうな顔をしているように見えた。なぜかそれが少し面白くなくて、翔太郎もつい意地悪い言い方をしてしまう。 「向こうだって離れたくなかったら、引き留めなくたって帰省しなかっただろうしな」 「ふんっ……」
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