抱き枕の恋ごころ

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 キッと一瞬睨まれたが、またすぐふいっと視線を逸らされる。 「せっかく来てくれたんだから、浩くんをいじめないで、翔ちゃん」  戻って来たママに責められる。ママの小言は翔太郎だけでなく、浩明にも向かった。 「浩くんも、安眠するだけの相手じゃなくて、そろそろ本当に好きな人を見つけなさいよ」 「それができていれば、苦労しないよ」  あらぬ方向を見て、諦めたようにそうつぶやく浩明の姿は、翔太郎の知らないものだ。会わない間、どんなふうに暮らしてきたかを聞きたかったが、そんなことをしたら浩明に嫌がられるだろうということもわかるから余計なことは聞かないつもりだ。  カウンターをきれいに磨き上げると、翔太郎はトレイをもってフロアーに出た。  年末年始でいつもよりは客足が悪いが、スタッフも少ないので、翔太郎も雑用からすべてをこなさなければならない。グラスやつまみの皿を下げ、テーブルを拭いて片付ける。床に落ちたごみは、目につくものだけでもこまめに掃いておく。  めまぐるしく動くうち、あっという間に数時間が経っていた。再びカウンターに戻った時、浩明の横には男が座っていた。背が高く、男臭い容姿。自分と似たようなタイプの男のアプローチをまんざらでもない様子で受けている浩明に、なぜだか急に面白くない気持ちがこみ上げた。 「ちょうどよかった。飲み物、水割りをお願いします」  隣に座った男からオーダーを受け、引きつりそうな作り笑いを浮かべて飲み物を提供する。 「ありがとう」  にこやかに談笑を始めたふたりを忌々しく思うが、カウンターに座っているゲストは浩明だけではないので、他のお客様にも気を配らなければならない。忙しく立ち回っているうちに、ふたりは立ち上がり、相手の男性が会計の合図を出してきた。
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