抱き枕の恋ごころ

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「もうそれほどお客様もいなかったから、皆にお願いして閉めてきたわよ」  だいたい想像はついていたが、実際に聞くとやはり申し訳ない。翔太郎の勝手で、軽はずみな行動が、このような事態を招いたのだ。 「…………すみませんでした」  ママは呆れ顔で翔太郎を見下ろしている。 「とりあえずそこに座りましょう。で、何があったわけ?」  普段吸わないタバコを取り出して、ママがため息とともにふうっと煙を吐き出す。  浩明がものすごい剣幕で事の次第を説明するかと思ったが、いつまでも黙っているので、翔太郎が仕方なく口を開いた。 「浩明のことを侮辱しました、俺が。悪いのは俺で、浩明は被害者です」 「どう、侮辱したわけ?」 「浩明と成立したお客様が会計を申し出たので、その際にその……」 「なに? なんだっていうのよ」 「浩明は病気持ちだから、やめた方がいいって忠告しました。そのお客様が慌てて帰ってしまって、やり取りを見ていた浩明が怒っただけです。当然です」 「はあっ……」  ママはあからさまに大きなため息を吐いた。無理もない。これは翔太郎と浩明だけの問題ではなくなってしまっているからだ。 「自分の浅はかな言動で、店にまで迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした」  カウンターに座っているゲストのステイタスを、従業員の翔太郎自らが貶めるようなことを告げてしまったのだ。その場にいたのが数人でも、そういう噂はヘタをすればあっという間に広まってしまう。 「店の方はなんとかなるわよ。浩くんに声をかけて来たお客様は誰だかわかっているし、あの人は話せばわかる人だと思うから後でフォローは入れておくわ。そこは心配しないで」 「本当にすみませんでした……」 「問題は浩くんにしてしまったことよ。私今翔ちゃんをクビしたいくらい怒ってるわ!」  ダンッっと拳を落とされて、机の上にあったペットボトルやマグカップが浮いた。翔太郎と、なぜか浩明までビクッと肩が上がる。
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