抱き枕の恋ごころ

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 また、熱い視線を感じる。顔を上げて店内を見まわすフリをすると、視線を感じた先には、細身のきれいな顔立ちの若い男。目が合うと小首をかしげてにこっと笑う。  翔太郎は慌てずにその男を見据え、ゆったりと微笑み返すとまた、何事もなかったようにグラスを拭き始めた。この手の視線には慣れている。昔から、何故だか男にも好かれるのだ。  生まれてからある時までは、たいていのことが思い通りの順風満帆な人生だった。今となればそのころの自分は傲り高ぶっている嫌な奴だったと自覚もできるが、なにしろ若くて、そんなことにも気づかなかった。  ある日ちょっとした小石に躓いたつもりが、気付けば大怪我みたいな事態になり、いろいろなものを失って呆然となっていた時、この店『オリーブ』のママに拾われた。  雑用のバイトから始まり、フロアボーイ兼バーテンダーとなって三年余り。今はそれなりに平穏な日々を過ごしている。
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