抱き枕の恋ごころ

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   次の日から翔太郎は浩明のうちに居候することになった。 「こんなベッドじゃ背中が痛くなる。今日から俺んち来い」  目覚めた時、寝顔が意外にもかわいらしいと思ったのは一瞬で、続けて目を覚ました浩明は開口一番にそう告げた。 「お前んち……行くのか?」 「翔太郎は俺の抱き枕なんだろう? だったら素直にいうことをきけよ」 「……わかった」  奇妙な同居生活が始まった。  基本的に夜型の翔太郎と、日勤のサラリーマンである浩明の生活はそれほどかち合わないので、思ったよりも気を使わなくていい。何より浩明の住まいはいわゆる高級マンションなので居心地も最高だ。  浩明は米国が拠点の巨大コスメティックグループ勤務で、最近日本に上陸したブランドの企画室長に抜擢されて帰国したらしい。  ブランドはまだ軌道に乗っているとは言い難い状況なので、朝はそれほど早くないが、帰りは終電、ということもめずらしくなかった。 「翔太郎、お腹空いた!」  翔太郎が店を閉めて後片付けをし、自転車を飛ばして帰っても、浩明のマンションにつくのは午前一時過ぎ。浩明はシャワーを終えてくつろいでいることもあるが、スーツのままで出迎えられる日も多い。 「そう言うと思って昼間スープを作っ……」 「肉が食いたい」 「へ?」 「忙しすぎてフラフラなの。肉食いたい」  急に言われてもそんな用意はできていない。 「わかった。肉は明日がっつり食べさせてやるから、とりあえず今日はスープで我慢しろ」 「…………しょうがない。じゃあ美味いヤツ期待してるからな」 「はいはい……用意するから、早く風呂入っちゃえよ」
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