抱き枕の恋ごころ

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 仕事に出る前に煮込んでおいたミネストローネは充分味が染みているだろう。温め直す間、薄く切ったバゲットにニンニクを擦りつけて、バターを乗せてトースターに入れる。 「お待たせ」  全体的に栄養が足りていなさそうな浩明の為に、ミネストローネにはチーズをプラスしてコクを出した。  肉がない、とぶつぶつ文句を言いながらも、結構な勢いでスープを啜り、パンを齧る。  見た目と違って浩明はよく食べるらしい。うまそうに食べる姿は見ていて気分もよかった。明日はローストビーフでも作ってやろうと思う。 「ごちそうさま」  浩明が食べ終えた食器を片付け始めたので、翔太郎は浴室に向かった。 居候だから身の回りの世話をするのも厭わなかったが、浩明は基本、自分のことは自分で行うというスタンスだった。  食事だけは唯一、翔太郎まかせだった。自分で作るより翔太郎が作った方がずっとおいしいから、ということらしい。  翔太郎も風呂を終えると、浩明は既にベッドの中にいた。  浩明のベッドは翔太郎がねぐらにしている倉庫のベッドに比べ、三倍くらいはありそうだ。マットレスも上質のようで、素晴らしく寝心地がいい。翔太郎だったらこのベッドに入って三秒で眠る自信があるが、こんなに立派なベッドでも、浩明は翔太郎がいなかったら眠れないのだから心底不憫だと思う。  翔太郎がベッドに入ると、すっと浩明が寄り添って、胸に顔を埋めてきた。そうして本物の抱き枕さながらに抱きつき、足を絡めて乗っけてくる。  重いな、とは思うが、翔太郎がそれを声に出すことはない。そっと腕を回して浩明の体を抱き寄せる。
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