抱き枕の恋ごころ

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 幾日かこのうちで過ごすうち、いくつかの決め事ができた。  お互い干渉しないのは基本だが、どちらかの都合で、添い寝をしない、出来ない状況になるときは事前に申し出ること。  浩明は翔太郎を自由にしていいが、翔太郎は抱き枕なので基本自分の意思では動かないこと。  そして――ベッドの中のことは決して他言しないこと。  些細なことであるが、それらを決めてから、浩明は素直に欲望を果たせるようになったみたいだ。  いつもそっけないが、本当はスキンシップが好きなのだろう。ベッドの中では大抵翔太郎に寄り添っている。  はじめは男と添い寝などできるのか不安だったが、それは杞憂だった。  化粧品会社勤務なので、バス用品やスキンケアは、そういった方面に疎い翔太郎から見てもグレードの高い製品を使用しているのがわかる。そのせいか、浩明からはいつもどこかいい香りがした。女性のような柔らかさはないが、肌はしなやかですべすべしているから触れられても違和感がない。  何より浩明の、自分より少し低めの体温が心地よいのだ。  翔太郎が傍らにいる時は本当によく眠っている。あまりにもよく眠っているので、実は眠れないなんて嘘なんじゃないかと思っていたが、出張後などは目の下にクマを作って本当にげんなりしているので、疑うこともやめた。
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