抱き枕の恋ごころ

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 先程の男が妖艶な笑みを浮かべて近寄ってきた。優雅な仕草でスツールにこしかける。見る人が優雅だ、と自分をみつめることを十分に理解した立ち振る舞いに、翔太郎は周りにばれないよう本当にごくわずか、ため息を吐いた。  男は頬杖をついて翔太郎を見上げる。  きっとこの手の勝負で負けたことがないのだろう。しおらしく装っていても自信がみなぎっているのがわかる。  翔太郎が立つカウンターの向かい、客席側に座れるのはママが認めたごくわずかな人間のみ。大抵は皆かなり容姿がすぐれているし、社会的地位が高いものも少なくないから、当然ながら自己評価も高い者ばかりだ。 「久しぶりに来たんだけど、バーテンさん変わったんだ。こんなかっこいい人がいるなんて」  男は屈託なく翔太郎に話しかける。  バイト上がりとはいえ、最近はバーテンダーの仕事に誇りを持って修業・勉強に励んでいる翔太郎は、悪気はなくともバーテンと呼ばれたことに多少イラッとしたが、そんなことはおくびにも出さず、控えめに微笑みを返した。黙ったままの翔太郎に少し焦れた様子の男が上目づかいで畳み掛けた。 「名前、教えてくれない?」 「翔太郎です、よろしくお願いします。古郡様」 「えっ、ボクの名前知っているの? うれしいな」
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