抱き枕の恋ごころ

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「浩くん、どう? 翔ちゃんは、お役目きちんと果たしてるのかしら」 「ママ……意味深な言い方やめて下さい」 「まあ、それなりかな……役立たずだけど、図体は大きいから枕としては最適だと思う」 「まあ……翔ちゃんのナニが役に立たないのかしら? 詳しく聞きたいわ」 「もうその辺にしてください……」  仕事から早く上がれた日は『オリーブ』に飲みに来る浩明の近況をママが知りたがった。 「まあ、目に見えて浩くんの血色がよくなったから安心したわ。こんなポンコツ枕でよければ永久に貸してあげるから」  最高に辛口な言葉にふたりで苦笑していると「意味深だわね」とまた絡まれる。 「俺、フロアーの掃除してきます」  逃げるようにその場を離れ、チラッと振り返ると、浩明はまだママと楽しそうに談笑していた。  ママの言う通り、確かに浩明の顔色はみるみる良くなってきていた。やはり人間、睡眠を削られるのが一番堪えるのだろう。最近はカリカリすることも少なくなったし、食事もよく食べる。 「あっ、それは前からか」 「なんか言った?」 「わっ……」  いつの間にか浩明が後ろに立っていた。不意打ちに思わず仰け反っていると、冷たい表情で見つめられる。 「じゃ、俺先帰ってるね」 「お、おう……お疲れな」  我ながら不思議な生活だと思う。こうやって別れても再び浩明のマンションで合流し、ひとつのベッドで眠るのだ。
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