抱き枕の恋ごころ

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「やっぱり丸岡か……」  突然の出来事で、頭が真っ白になる。以前の会社で同期だった福石という男。同期といっても仲は良くなくてライバル、それもお互い高め合うというよりは、足を引っ張り合うような好ましくない間柄の男だった。  その福石が勝ち誇ったような顔をして立っている。 「店の裏を歩いていたら、お前に似てる奴がいるなって思って。まさか本人とはな……女にやり込められたから、男に走っちゃったんだー。きもっ……」  木曜日の夜で、店は盛況の時の六割くらい。そこそこ客足があるものの、週末一歩手前で、どこか気だるい空気が流れていたのに、店内がピリピリした空気になる。  あきらかに当事者の翔太郎よりもお客様たちの方が、店の雰囲気を壊されたことに憤りを感じているようだ。『オリーブ』のお客様は特に、こういった状況を好まない。  翔太郎の前で飲んでいた浩明も、訝しげな表情でふたりを見比べている。 「福石……他のお客様もいるから、少し声のトーンを落とそうか」  これ以上雰囲気を悪くしないようやんわりと制した翔太郎をよそに、福石はよけいに声を張り上げた。 「ゲイバーだろ、ここ。そこで働いてるってことは、お前もホモなんだろ? 落ちぶれたもんだな」
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