抱き枕の恋ごころ

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 福石がひるんだ調子に浩明が腕を掴んで店の外に出した。慌てて翔太郎もその後を追う。福石は浩明の手を振り払うと翔太郎へ向き直った。 「丸岡、なんだよ。なんで怒んねーの?」 「まあ……言われたことは当たらずとも遠からずだし。で、それだけか?」 「なっ、なんだよ」 「俺になにか言いたいことがあって来たんだろう?」 「別に…………ない」  すると浩明がぷっと吹き出した。 「なんなんだよ! お前」 「この人はきっと、翔太郎のことが心配だったんだよ」 「ちげーよっ」 「だって、あなたのことを見たの、今日が初めてじゃないもん」 「なっ!!」 「この間店に入れなくて、遠巻きに見てたよね」  肩を怒らせていた福石の体から力が抜けた。 「なんで知って……」  追い打ちをかけるように浩明が福石を突き飛ばした。尻もちをついた福石を見下ろして冷たく言い放つ。 「ノンケの翔太郎くんは、みんなのものなの。これ以上、翔太郎を侮辱するようなことを言ったら俺は許さないし、店のみんなも黙ってないよ!」 「ひろ……あき」  こんな激高した様子の浩明を見るのは初めてだった。きれいな顔が怒ると凄味が増して怖い。福石もたじろいでいる。 「わかったら、さっさと帰りな!」  異様な雰囲気に呑まれるようにしておずおずと立ち上がった福石は、我に返ると一瞬だけ悔しそうな顔を翔太郎に向け、去って行った。
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