抱き枕の恋ごころ

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「翔ちゃんはね、ドノンケだから。はっぱかけても無駄よ。ほらほら、今日はお客様も多いから古郡ちゃんならきっと選びたい放題じゃない?」  やさしい言葉をかけながらもママは古郡の肩をがっちりつかんで翔太郎から一番遠いスツールに古郡を移動させた。  古郡が新しい席についてまもなく、ママの言う通り店内の奥から男性が近づいて来て、古郡に声をかけた。長身の男性は古郡のお眼鏡にかかったらしく、まんざらでもない様子で会話をしている。  にこやかにグラスを傾けたふたりは、三十分もしないうちに長身の男性がお会計を済ますと連れ立って店を出ていった。 「あの子は見かけによらず肉食なのよね。ホント、油断も隙もない」 「助かりました。ママ、ありがとうございます」 「あらいいのよ。どうせ翔ちゃんがなびかないってわかってるから、楽なもんよ」  『オリーブ』でフロアボーイ兼バーテンダーに抜擢された理由はただひとつ。翔太郎がノンケだからだ。それも男性にまったく食指が動かないドがつくノンケ。  彼らはやはり魅力的な人間が多いので、ノンケだと思って雇った店員がいつのまにか食ったり食われたり……となってしまうことが一時期頻繁にあり、ママの頭を悩ませていたそうだ。  『オリーブ』は出会いの少ないゲイ向けに出会いの場所を提供している。それなのに見目のいいお客様が次から次へと店員に持って行かれたのでは、通常のお客様は面白くない。
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