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「ジェニー」
俺の声に彼女は振り向いた。
「お疲れ様」
言葉とは裏腹に青い目には思い詰めた光が宿る。
「ベルと帰ったんじゃないのか」
金髪碧眼、小柄で骨の細い体つき。
この子を見る度に小さな女の子の好きな着せ替え人形みたいだと思う。
同じ姉妹なのにまるで似ていない。
短い黒髪に黒い瞳をした、背は六フィートの俺よりちょっと小さいだけの、「男ならいいのに」とよく言われるベルとは……。
「一度帰ったけど来ました」
ジェニーが胸に抱いたピンクのハート型の箱に思わずぎくりとする。
いや、予想しないことではなかった。
「もう夜中の二時だよ」
口うるさい教師よろしく二本指を立ててみせる。
「知ってる」
赤いリボンを結んだハートが震えた。
「ベルは」
どうして来ない。
抱きしめようとした俺の腕を振り切って逃げたまま。
見渡すバレンタインの夜景が次第に滲んでいく。
「今夜は部屋に閉じこもってるわ」(了)
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