恋する透明人間

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僕は、25歳の独身男で、IT系企業に勤めるごく普通の会社員である。 僕は、これまで生きてきた人生の中で、もちろん女性を好きになったことはあるが、残念ながら、その恋が実ったことはない。 それは、恋をすると僕の体に不思議な現象が起きてしまうからだ。 この不思議な現象に初めて気が付いたのは、中学2年生の頃だった。 当時僕は、吹奏楽部に所属していたが、同じ吹奏楽部に所属する、麻衣(まい)ちゃんのことが好きになった。 麻衣ちゃんは笑顔がかわいらしい感じで、僕は麻衣ちゃんの前では、緊張して思うように話をすることができなくなってしまうほどだった。 ある日僕は、思い切って麻衣ちゃんに告白しようと、昼休みに学校の中庭に麻衣ちゃんを呼び出して、麻衣ちゃんの目の前に立って告白しようとすると、突然麻衣ちゃんが悲鳴を上げたのである。 一瞬僕は、何事が起きたのかわからなかったが、自分の手を見て僕自身も驚いた。 手がないのである。 しかし、腕を動かしてみると、制服の袖が自分の思ったように動いているのである。 また、右手で左手を触ってみると、手の感触はある。 そう、僕の手はなくなったというより、透明になってしまった…といった表現が適切かもしれない。 僕は、あわててお手洗いに駆け込んで、自分の顔を見ようと鏡を見ると、そこにはいつもの自分の顔があって、その時には手も元通り見える状態になっていた。 麻衣ちゃんからは、すごく気味悪がられた記憶がある。 後で、麻衣ちゃんに話を聞いてみると、顔も消えていたという話だった。 この奇妙なできごとが、なぜ突然起きたのか、この時の僕には想像がつかなかった。
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