一、遅刻してきた美少女と、曲がり角で。

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豆田町商店街の、一番城跡から離れてひっそりと佇むその角に、写真館はある。 うちは元々は甘味処だったけど、お父さんが継がなくて廃業して、ほとんど収入もないような駄菓子屋さんしてる。 だから、何代も続いている商店街の中で、唯一写真館だけは仲間意識があったのに。 あのおじいちゃん、孫が居たんだ。そうか。 「月日が経つのは早いものだ」 とぼとぼと歩いていたら、『フワラー梶原』のおじいちゃんが、シャッターの閉じた店の前に、丸椅子を出し座っている。 寒いのか、頭に被った毛糸の帽子が、小人みたいで可愛い。 「月日が経つのは早いものだ? ことわざか何かですか?」 「雪が解ければ春になる。雪が解けても水じゃないんだ。じゃあ、旅立った月日に、置いて行かれた儂の名は?」 「ええー」 今日の朝も、お爺ちゃんのそんな話に付き合ったばかりなのに。
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