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朝霧が深く山を覆い隠す中、比奈(ひな)はブロック塀の上に音も立てずに登る。
天使の羽のように、長く艶やかな髪が舞い上がる。
小さく愛らしい身長に、真っ赤な唇と頬は本当に天使と例えられそうだ。
塀の上に堂々と立ち、妖刀『秘め百合』で宙を切ると、永遠と続く平地の向こうの建物を見上げた。
「っち。遅刻どころの話じゃないじゃん」
観光バスが次々に少女の隣を通過していく。
塀の上の美少女に写メを撮る人さえいるのは、比奈自体が観光名物になっているからだ。
比奈もまんざらではない。
だが時刻は九時過ぎ。
完全に学校へ登校するには、遅刻し過ぎた。
頭を掻きながら、塀の上を走り抜けると、バスからは歓声が上がった。
いつもの、ありふれた日常の一こまだった。
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