ただし、砂糖抜き。

　去年のバレンタインまでは、課長宛てのチョコレートの数もここまで多くはなかった。

　それが、女性社員の人気ナンバーワンだった営業の上村さんが、社内でも有名なお局社員とまさかの授かり婚をして既婚者になり、ナンバーツーだった岩井田さんも、会社を立ち上げるために退社してしまった。

　社内人気のツートップを失ったあとの女子社員たちの変わり身は驚くほど早かった。

　穏やかな物腰、どんな人が相手でも分け隔てなく見せる細やかな気遣い、まるでそれらを象徴するかのような眼鏡の奥の優しい瞳。同じ部署で働いてもう三年になるけれど、私は課長が誰かに対して声を荒げるところを一度も見たことがない。

　加えて弱冠三十五歳で課長職に抜擢され、将来は約束されたようなものだし、営業職ではないから、この先転勤の心配もない。

　そう、彼女たちはついに気がついてしまったのだ。一見控えめな人事課の本田課長が、実は超優良物件だったということに。