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「ああ、ごめんね向井さん」
「いえ、もうこちらは終わりましたから。……課長お疲れでしょう? お茶でも飲んで一息つきませんか?」
「……そうだね。お願いしようかな」
私が左手の紙袋を見ていることに気がついたんだろう。課長は苦笑いを浮かべた。
「その間、資料の確認をお願いできますか?」
「わかった、やっておくよ」
課長にぺこりと頭を下げ、オフィスをあとにする。私は一度ロッカールームに走ると、自分のロッカーから今日のために用意していたあるものを取り出した。
周りを気遣ってはっきりと口に出したことはないけれど、実は課長は甘いものが大の苦手だ。
コーヒーには砂糖はおろかミルクすら入れないし、飲み会ではいつも、ビールのあとは辛口の日本酒を好んで飲んでいる。お土産でもらうお菓子も、自分では手を付けずに誰かに譲ってしまうし、今日だって、ときどき山のようなチョコ―レートを見てはため息を漏らしていたのを私は知っている。
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