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「お母さん、お風呂出たよー」
髪の毛を拭きながらリビングへ戻ってきた彩奈は、私がノートをめくっているのを見て、そこにノートを置きっ放しだったのを思い出したようだ。
「それね、学校の用具入れで見つけたの。『サエキカオリ』さんが書いてるのは分かるけど、相手の名前は出てこなくて謎でしょ? 面白いから持って来ちゃった」
偶然見つけた彩奈のイタズラで、図らずも日記は私の元へと戻ってきた。娘に「相手は、私だよ」
と言うのは恥ずかしくて、苦笑いが出てしまう。
私の隣に彩奈は座って一緒にノートを覗き込んだ。
「ずっと置いてあったって事は、最後のページは読まれてないのかな?」
「……そうだね」
香織ちゃんに読まれる事なく、私の最後の問い掛けは宙ぶらりんになっている。
私は、かつて自分の物だった日記をめくって、最後に書いた自分の文字を見た。
『香織ちゃん、ごめんなさい。本当にごめんなさい。私は香織ちゃんが大好きです。
香織ちゃんは、大切な友達です。
私のこと、嫌いになってしまいましたか?』
「……読んでくれたら良かったのに」
そう悔やむ娘に、私はふふ、とつい笑ってしまった。
読んでくれたら良かったのに。
私も、彩奈と同じ年の時に強く想ったのよ、と心の中で言う。
最後のページを懐かしく眺めていたけど、彩奈はおもむろに私の書いたページをめくった。
「これを読んでくれたら、きっとこの人達はずっと友達なのにね」
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