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サエキカオリ
その名前で私が驚いたのは、私が今の彩奈と同じ小学六年生の頃、同姓同名の同級生が居たからだ。
佐伯香織は、六年生の春に東京から越してきた女の子だった。
ストレートの黒髪を結ばずに下ろして、ふわりとしたストライプのスカートに紺色のニットを着た彼女は、こちらの太い三つ編みおさげの女子たちには衝撃的なスタイルだった。
中学生になったら履くものだと思っていた紺色のロングソックスを普段使いで着用していた彼女は妙に大人びて見えた。
そんな彼女にクラスの女子が群がるのはごく自然のことで、瞬く間に彼女はクラスだけでなく学年全体の人気者となった。
彼女が話す事は常に最新だった。
テレビにもまだ出てこない海外のロック歌手や、今年流行するファッションアイテム。こちらでは親同伴でなければ入館していけない映画館に、東京で友達同士で行って見たという映画の話。
普段はそれほど笑わない佐伯香織は、ふとした瞬間に口の端を少し持ち上げるように笑う。
その仕草まで大人っぽく思えて、みんな彼女の視界の中に入ろうとした。
彼女に友達だと思われる事が一番のステイタスになったのだ。
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