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男の名は、迫田治。
倫の母方の従兄弟だ。
中学を卒業する間際、1度だけ興味本位で寝た男。
年は迫田の方が1コ上だが、倫は早生まれなので
学年的には同級だった。
中卒後、倫はその当時から”将来は医者になる”と
決めていたので。
東日本でも有数の進学校、私立杜の宮学院から
国立陵南大学医学部へ順調に駒を進めていったが。
迫田は父親に多額の賄賂を使わせ倫と同じ杜の宮へ入学。
しかし、所詮裏口入学では進学校の授業についてゆけず、
僅か3ヶ月で中退。
その後、再び親の金でアメリカ留学を果たすも、
ギャンブルとドラッグに溺れ。
19才の時、仲間の裏切りで密告されて当局に逮捕、
2年少々LAの州立刑務所に服役していた。
そんな男が8年ぶりに突然現れた。
嫌な予感しかしなかったのは当然と言えよう。
『よっ、倫』 何事もなかったかのような気易さで
迫田は話しかけてくる。
倫太朗は無言で迫田を睨みつけた。
(こいつのおかげでボクの高校時代は地獄そのもの
だった。絶対に許さない)
迫田は”ヒュ~”と、口笛を吹いてゆっくり近付いて
来る。
「―― 相変わらず俺好みの面しやがるな」
ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべて目の前に立った。
こんな男にたとえ1度でも体を許してしまった自分が
呪わしい……。
「お前の引っ越し先、探すのホネ折れたんだぜ~。越して
もう4年近くなるのに(実家から)まだ住民票移してねぇ
のな」
「……何の用だよ」
「何って、そりゃあよう、お前に会いたかったからだろ」
「ふ ―― 会いたかった、ね……」
そう、倫太朗が自嘲めいた笑みを浮かべると、
突然迫田の表情が変わった。
「大倉と田代には好き放題ヤラしといて、俺は飽きたら
ポイ捨てかよ。そりゃねぇだろ~?」
(あの2人は少なくともお前よりテクは上だったし、
別れ際も心得ていた。元々2人共バイだったから、
彼女が出来て、結婚したんだ)
倫太朗があからさまに不快の意思を表しても迫田は
涼しい顔をしている。
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