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「―― じゃあ、お疲れ様でしたぁ」
いつもの挨拶をしながら通用口の警備員詰め所前を
通り過ぎようとしたら ――
『あー倫センセーちょっと待って!』と、若手警備員の
土方くんに呼び止められた。
「あのぉ、コレ、とら次郎にあげて下さい」
そう言って土方くんがボクに差し出してきたのは、
缶切り不要タイプの猫缶=キャットフードだ。
「へ? 猫缶……せっかくだけどボク、猫は飼ってないん
だけど」
「*丁目公園のとら次郎に仕事帰りいつも餌あげてる
でしょ?」
”*丁目公園”と言われて、すぐに思い当たった。
あの、三毛猫だ。
「あぁ ―― あの仔猫ちゃんかぁ……ありがとね、
土方くん。たまには残飯じゃない物もあげたかったから
助かるよ」
改めて「じゃあ、お先に失礼します」と挨拶し、
病院を後にした。
クククッ ―― とら次郎って、あの仔猫ちゃん、
メスなんだけどなぁ……。
*** ***
『ミーコ、ミーコ、ミーコ ――』と、しばらく
名前を連呼していると、ミーコ改めとら次郎は
いつも姿を現す、大滑り台の後ろの方からやって
来た。
「やぁ、今晩わ。今日のディナーは豪華だぞ~」
餌が本来の猫メシだと食いっぷりもかなり違って、
***グラム程の猫缶はあっという間になくなって、
とら次郎は自分の寝ぐらへ戻って行った。
倫太朗は、さて、そろそろ自分もと重い腰を上げた時、
その、少し異質な者に気が付いた。
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