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桜がこの世を去ったのは、満月の美しい、春の夜のことだった。 数日前、桜は神域に迷い込んだ村人を介抱した。そのとき流行り病を移されたらしく、容体は悪化の一途をたどっていた。 高熱に苛まれ、食事を取ることさえままならず、日に日に衰弱していくのを、止めることはできなかった。 桜が治すことができるのは「他者」の怪我や病気であって、その力は己の回復には当てられない。 槐が彼女にいくら力を注ごうとも、死へ向かって転がり続ける身体にとっては、緩やかな延命措置にしかなり得なかった。
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