6人が本棚に入れています
本棚に追加
21.朝霧の呪い
集落の雰囲気はいつの間にか随分と殺伐としていた。
戦士である男たちは武器を作り、訓練に明け暮れ、戦士でもなかったはずの男たちが次々と名乗りを挙げている。
そんな中で朝霧久也にできることと言ったら皆の健康管理に関してアドバイスしたり、食料・資源の確保と武器の手入れを手伝うくらいだった。一方で拓真は稽古は勿論、武器の改良案など出していると言う。
(まさに「必要は発明の母」だな)
それまでの拓真は、将来はコレと決めた目標を持たずに文学部を浮遊していただけだったが、最近は誰も話しかけられないような真剣な眼差しで槍などと向き合ったりする。打ち込む何かを見つけられたのはある意味喜ばしいのかもしれない。
だとしてもこの先、一体何がどうなるのやら――久也は思考を巡らせながら散歩していた。片手には小枝の束を持っている。薄っすらと胡椒に似た味のする枝で、口がさみしい時、他に用途も無く噛むものだ。この世界でのバブルガムみたいな役割だと思う。
久也の場合はマラリアと思しき熱がやっと引いたばかりなので、なかなか戻らない食欲を刺激する為に噛んでいる。
(ん?)
当てもなく歩いている内に台地の中心近くに来てしまい、久也は深刻そうに身を寄せて話している夫婦を見かけた。パーム酒を精製している夫婦で何度か関わり合いになっている。
「どうした?」
眉をひそめつつ声をかけた。
「ヒサヤ……」
夫の方が先に応じた。
「実は、――が、――――!」
「悪い。もう一回言ってくれ」
拓真と違ってこちらは天性の「砂の耳」を持たない。数か月暮らしていても未だにヒヤリング能力が追いつかないので、誰が相手でもゆっくりはっきり話してもらう必要がある。
そうして数分ほど応酬が続いた。互いに通じる表現が見つかるまで何度も試行錯誤した。幸いなことに、二人は根気よく付き合ってくれた。
「……つまり、アンタの母親が数日前の朝から帰って来ないんだな?」
「そうだ」
夫婦は両手を広げてうんうんと何度も頷く。
最初は遠くまで一人で食物の採集にでも行ったのかと思ったらしい。そういうこともよくあるので、家族は彼女が自ら帰って来るのを待った。しかし待てども待てども戻らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!