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聴き終えると彼女は顎に手を当てて目を細めた。
「まずいな……」
「ど、どうしてですか、姫さま!?」
夫婦は彼らの巫女姫に縋るように問い質す。サリエラートゥの対応は冷静だった。二人の肩にそれぞれぽんと手を載せて、ゆっくり伝える。
「どうもこうもない。昨日今日聞いただけで少なくともあと三人は居なくなっている。全員が、夜に寝付いてから朝に家族が起き出すまでの間に、姿を消したと聞いている」
「そんな!」
「一大事ではないですか!」
久也が受けた衝撃を夫婦が代弁してくれた。
嫌な予感が的中したのかもしれない。この事件が何を意味するのか、脳細胞をフル活用して考える。
「サリエラートゥ、アンタの経験から見て、北の奴らはこんな呪いをかけられるのか?」
まず真っ先に確認しなければならない点を突く。
艶やかな黒い瞳と視線が絡まった。
「私の経験からだと、ありえないな。北の部族は精霊と通じて他者に呪いをかける。性質は、対象の行動を狂わせたり病をかける類のものだ。大抵は滝神さまの守護があれば容易に撥ね退けられる程度の効力だ。誰にも気づかれないように複数人を消す呪いなど存在しないはず」
大真面目な顔と、オカルト回路全開な返事が返ってきた。
だが滝神の巫女姫が断言するなら信じるに値するだろう。そして他に判断材料も無い以上、信じるしか選択肢がない。
今度は久也が顎に手を当てて考え込んだ。
(整理すると……)
一、連続して行方不明者が出ている。
二、全員が夜または早朝の内に姿を消している。
三、この頃変わったことと言えば、明け方に霧が出る日が増えていること。
四、北の部族は滝クニの人間を人柱にする為に連れ去る・攫うつもりなのは明白。
(じゃあ問題は方法か。何気に日が経っているのも気になる)
敵がストレートに大軍を引き連れて攻めて来ると戦士たちや集落の民は思い込んでいるが、根拠は伴っていない。会合の日から二週間近く過ぎている。これだけ時間を空けているのは向こうも準備に時間がかかっているからだ、とアレバロロ辺りは言っていたが。
果たして戦士たちの予想通り、今後は派手な衝突のみが待ち受けているのかどうか。
(朝霧が呪いじゃないにしても、藍谷英は何を仕掛けた?)
欠片もイメージが浮かばない。
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