21.朝霧の呪い

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 情けないことに久也自身は件の霧についてはあまり知らないのだ。ここの所マラリア(仮)に臥せっていたのもあって、意識が朦朧としてた日が多かった。午前中にちゃんと起きられたのは一昨日が久しぶりだったくらいだ。  サリエラートゥやパーム酒の夫婦も日が昇り切ってから起きるタイプなので、直接霧を見ていない。  久也はひとつため息をついた。 「しょうがない、聞き込みでもするか。悪いが付き合ってくれ」  通訳係として巫女姫を誘ったら、彼女は腰に片手を添えて快諾した。 「それで問題解決に近付けるなら私はいくらでも付き合うぞ、ヒサヤ」 「頼もしいな。ありがとう」  そうして地道な情報収集は昼過ぎに始まり、大雨が降り出す二時間後まで休みなく続いた。 *  一通り情報が集まったタイミングで雨が本降りになったため、二人は一旦家の中に入った。  外ではゴロゴロと雷が鳴っている。  久也は上半身裸にして胡坐をかき、濡れないように死守したメモ代わりの布を取り出して、松明の灯りの下で読み返していた。 「夢遊……気が付けば外に居た……いつも何かリアルな夢を見て覚める……覚めたら周りは真っ白……」 「ふむ?」  隣で寝そべっているサリエラートゥがメモを覗き込むように顔を寄せてきた。腰周りの布を除けば全裸である。濡れた服を乾かす為には仕方ないとはいえ、この露出少女は全力で無視しないと色々保たないので、極力視界に入れないように努めた。 「メモは日本語で書いたし、読めないだろ」 「なんとなくはわかるような……」 「神力の無駄遣いすんなよ、声に出してやるから」 「わかった」  とだけ答えると、サリエラートゥが顎を久也の膝にのせてきた。  突然の温もりと柔らかい感触が落ち着かない。姿勢を変えるべきか悩んで、結局放置することにした。 「真っ白な中、慣れない香りが鼻の奥に残っている……ん? 霧に香りなんてつくか普通?」 「あるとしても水や森の匂いと言った、慣れた香りのはずだ」 「だよな。えーと、白の動き方がヘン……もっと風にのってフワフワ流れてた……」  この証言をくれたのは確か十歳前後の子供だった。子供は時々先入観抜きで物事を観察できるので、大人よりも信憑性のある証言と考えられる。 「フワフワって抽象的だな。何だ? 湯気?」  既に散乱した水蒸気でなく、ピンポイントに熱い箇所から上がる湯気ならば動きはふわふわだ。
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