23.形無く象るモノ

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 だが濃度勾配に逆らわねばならない場合は、そうは行かない。自然な流れに逆らうには工夫が必要になる。 「この場合の輸送物質って何だ? 『人間』か?」  滝神は目を輝かせるだけで言葉では答えない。答えてしまったら、それも三つの質問の内に数えられるからかもしれない。 「だとすると濃度勾配は……人口か」 「流石そなたは察しが良いな」 「で、エネルギーが『神力』なのか。要するに膨大な神力が無いと逆方向に物質を輸送できない……アンタがそんな顔をするぐらいに、人二人を運ぶのは大変だってことか」 「そうさな」  それがどれくらい大事(おおごと)なのか、言われずとも久也には掴めそうな気がしていた。 「じゃあ第二の質問。藍谷英は、この真実を知ってるんだな」  質問というよりは確認だった。  瞬間、滝神の面貌から表情が抜け落ちた。気味の悪い光が双眸に宿る。  祭壇の左右の炎が刹那の間、勢いを増した。 (英が滝神を恨んでいるとしたら、もしかしたらその感情は共通しているのかもな)  寒気がして、つい腕を組んだ。傷口から溢れる血が胸についたが、気にならなかった。  やがて滝神は笑ってみせた。 「うむ。奴は知っている。知って、企んでいる」  何もかもが腑に落ちるのを久也は感じた。英が固執している「人柱」とやらも、きっとそういうことなのだろう。 「どうやって聞いたんだ?」  これが質問になった。 「細かい経緯は知っても足しにならん。要約すると、人魚(マミワタ)に聞いたのじゃ」 「ま……人魚って実在するのか……」 「実在するが、奴らは人肉が大好物じゃ。一生遭わぬ方が良いぞ」 「ソウデスネ。気を付けるよ」  藍谷英が人喰いの化け物と何をどう交渉したのか、想像したくはない。  久也は長いため息をついて、気を取り直した。 「最後の質問。アンタは、どういう存在なんだ?」 「ほう」  滝神は瞬いた。そして、口の端々を吊り上げた。 「大きく出たな。どう答えて欲しい?」 「そうだな、とりあえずアンタが『代償』だ何だと言うからには、願望を具象化できる存在なのはわかってる。そこんとこをもっと詳しく。どうしてアンタがその力を持ってるんだ? 他の部族の神も同類なのか? そもそもこの世界における神ってのが――」 「落ち着け。わらわがそんなにたくさん答えたらそなた、生贄となる前に失血死するぞ」
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