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だが濃度勾配に逆らわねばならない場合は、そうは行かない。自然な流れに逆らうには工夫が必要になる。
「この場合の輸送物質って何だ? 『人間』か?」
滝神は目を輝かせるだけで言葉では答えない。答えてしまったら、それも三つの質問の内に数えられるからかもしれない。
「だとすると濃度勾配は……人口か」
「流石そなたは察しが良いな」
「で、エネルギーが『神力』なのか。要するに膨大な神力が無いと逆方向に物質を輸送できない……アンタがそんな顔をするぐらいに、人二人を運ぶのは大変だってことか」
「そうさな」
それがどれくらい大事(おおごと)なのか、言われずとも久也には掴めそうな気がしていた。
「じゃあ第二の質問。藍谷英は、この真実を知ってるんだな」
質問というよりは確認だった。
瞬間、滝神の面貌から表情が抜け落ちた。気味の悪い光が双眸に宿る。
祭壇の左右の炎が刹那の間、勢いを増した。
(英が滝神を恨んでいるとしたら、もしかしたらその感情は共通しているのかもな)
寒気がして、つい腕を組んだ。傷口から溢れる血が胸についたが、気にならなかった。
やがて滝神は笑ってみせた。
「うむ。奴は知っている。知って、企んでいる」
何もかもが腑に落ちるのを久也は感じた。英が固執している「人柱」とやらも、きっとそういうことなのだろう。
「どうやって聞いたんだ?」
これが質問になった。
「細かい経緯は知っても足しにならん。要約すると、人魚(マミワタ)に聞いたのじゃ」
「ま……人魚って実在するのか……」
「実在するが、奴らは人肉が大好物じゃ。一生遭わぬ方が良いぞ」
「ソウデスネ。気を付けるよ」
藍谷英が人喰いの化け物と何をどう交渉したのか、想像したくはない。
久也は長いため息をついて、気を取り直した。
「最後の質問。アンタは、どういう存在なんだ?」
「ほう」
滝神は瞬いた。そして、口の端々を吊り上げた。
「大きく出たな。どう答えて欲しい?」
「そうだな、とりあえずアンタが『代償』だ何だと言うからには、願望を具象化できる存在なのはわかってる。そこんとこをもっと詳しく。どうしてアンタがその力を持ってるんだ? 他の部族の神も同類なのか? そもそもこの世界における神ってのが――」
「落ち着け。わらわがそんなにたくさん答えたらそなた、生贄となる前に失血死するぞ」
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