03.その分だけ体重が軽くなる

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「今はまだ駄目だ。何故かと言うと、この洞窟が大地の母神たる滝神さまと通ずる宮……いわば『子宮』のような場所だからだ。最も神力しんりきの加護が強く、此処ならば怪我の治りが非常に速い。ヒサヤ、死にたくなければお前は出るな」  サリエラートゥはゆっくりと頭を振った。 「神力……と来たか」  思わず呟いた。  知らぬ間に訝しげな顔をしたらしい。サリエラートゥが意外そうに目をぱちくりさせる。 「何だ? 恩恵を受けておきながらまさか信じないのか」 「俺はオカルトは信じない方だったけど……」  答えが濁る。確かにこれまでは神通力の類は証明できないものと断じていたが、話している間にも痛みが引きつつある胸の傷は、抗し難い反対論を示している。 「死にたくはないから、従うことにする」 「ああ。それでいい」 「そうだよ久也、神力ってやつでさっぱり治しちゃいなよ」  巫女姫と拓真が揃ってうんうんと点頭する。  久也は巫女姫が差し出した力強い手に引っ張られ、こめかみを片手で押さえながら、何とか自分の足で立った。  そうして三人は闇の中を更に深く進むことになる。 *  小早川拓真は、自分たちがどうやら生贄になる為にこの世界に来たらしい事実を、あまり悲観していなかった。  多分、崖から落ちた時点で人生の終わりを一度受け入れたからだと思う。落ちた先の異世界で得られるかもしれない日々は、友達とカラオケに行った時に終了間近になってから誰かが追加料金を出すと決めた、オマケ時間みたいなモノだ。その時には一番歌いたかった歌は既にほぼ出し切っている。勿論、オマケ時間が増えれば増えるほどもっと歌いたい曲を思いついたりもするが。  拓真は長方形型の石のベンチに腰をかけてからは、能天気な笑みを浮かべて隣の久也と向かいに座る巫女姫サリエラートゥの真剣な言葉の応酬に時々口を挟んだ。 「この集落に定まった名は無い。外の人間は色々な呼び方を使うようだが……我々住民は、滝神さまの御座す郷、と呼んでいる」 「タキガミサマノオワスクニ? 長いなぁ。そんなクニあったっけ」  膝の上で頬杖ついて拓真は記憶の中の世界地図を探ってみた。地理には、まあまあ自信がある。 「名前の雰囲気は倭の時代っぽいな。それ以前に、ここは地球なのか?」  久也が拓真の方を向いて訊き返す。 「お前たちの故郷は、チキュウ、と言うのか」
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