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「そもそも生贄と神力と集落の関係性、人間の内蔵を神力に変換するシステムは最初からあったんじゃないのか? 滝神が人々の畏怖の念から誕生したってんなら……システムもまた、人間が望んだから作られた?」
ハッとなって顔を上げると、サリエラートゥの姿をした水が、慈しむように微笑んでいた。
「すまぬな青年、答えるのは今は止めておく。その傷ばかりは自力で止血して回復させねばならんからな」
滝神が指差した先では、己の左腕からけたたましい量の血が滴っているのが見えた。痛みは相変わらず感じないのに――
「また会おうぞ、青年」
短い挨拶の言葉が降りかかる。
――ぱしゃん!
水は浅い皿の中に一滴残らず戻り、そうして全く動かなくなった。
祭壇を照らす炎は弱まり、天井からまた水が落ちてきた。
久也はそれから数分はその皿の中に浮かぶ波紋をぼんやりと見つめ続けた。
突如、フッと松明立ての炎が消え、完全な闇が舞い戻る。
――生贄システムが人間の意思で作られたのなら、失くすこともできる?
或いは、不変だと思っていた自分と親友の運命にも路線変更の余地があるのではないか。そして巫女姫の務めも、もっと楽にしてやれる可能性もあるかもしれない。
僅かな希望が、胸を満たした。
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