24.死者に逢わせる花

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 始めは不規則だった足取りが直線を紡ぎ、母指球にかかる体重を増やしてどんどん深く刻み込まれていったのがわかる。最初は不安定だった足取りが最終的には確信を持って走り出したかのように、間隔が長くなる。 「それぞれの歩んだ道が交錯した様子も無いのだから、失踪した人間の一人一人を別個の事件として捉えるべきでしょう。稀に重なる所があっても、干渉し合っている様子がありません」 「同じ時に同じ場に居たとしても、互いに気付いたり声を掛け合ったりもしなかったと言うのか」  アッカンモディの兄、アレバロロが長い草をかき分けて姿を現した。声が聴こえるほど近くに居たらしい。 「そういえばそれはかなり変だね」  いくら視界が遮られていると言っても、人が動き回る音や気配はわかるはずだ。早朝に自分以外の人が動き回っていれば不審に思って声をかけるぐらいはするだろう。 「同じ時に同じ場に居たとも限らない。午後の雨は激しかったし、他に足跡は残っていない。たまたま岩の陰にあったからこの足跡は無事だった。しかし、やはり雨に多少表面が流されていて、付いた時間までは割り出せない」  アレバロロがつり目を細めて言った。それにアッカンモディは首肯する。 「そうですね。同じ時間に作られた跡なのかまではわかりません。こうなっては、今夜から見張りの者をつけるのが良いでしょう」  彼の提案に一同は賛同した。  これ以上ここからは何もわからないだろうと判断して三人はその場を引き上げ、一緒に来ていた他の十数人の捜索隊員を呼び寄せて草むらの端に集合した。そして互いの発見を報告し合う。目ぼしい情報は少なかった。  そう落胆した時、一人の短足の中年男が手を挙げた。彼は長すぎるズボンを地面に引きずりながら前に出た。確かこの者は、集落の中では特に植物や薬草に詳しい男である。植物を燃やした煙が使われたかもしれないとの仮定の元、巫女姫は彼を指名して捜索に加わらせたのだ。 「煙の残り香ですが、雨に流されてわかりづらいものの、微かに残っていました」 「何の植物が使われたのかわかったの?」  拓真は期待を込めて訊ねた。 「滅多に嗅がないので思い当たるのに時間がかかりました。――――――――、ですかね」 「え? くふぁ……何?」  思わず訊き返すも、なんとか?の花、と言ったらしいのは文脈と合わせて大体伝わった。
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