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「うるさいぞー」
「ご、ごめんね」
「おおお、人がたくさん!?」
「たくさん!」
七歳の幼児と、彼よりも一回り小さい四歳の幼女が家の前に集まっている集団を見て驚倒した。妹はそれがクセなのか、兄の言葉を嬉々としてこだまする。
父親の姿を見つけて二人は駆け寄った。
「父だー、おかえりなさいー」
「おかえりなさいー」
兄の頭は丸刈り、妹は左右の耳の上で髪がだんごにまとめられている。二人とももっちりと肉付きの良い頬や、大きな黒目や、潰れたような低い鼻が愛らしい。集落の人間よりも肌色が更に濃く、黒に近い色なのは、南の部族出身の母親の遺伝だろう。
「ただいま、オケブノ」
アッカンモディは膝を折り、息子とハイタッチを交わした。
「ただいま、タミャ」
次に屈んで娘を抱き上げた。きゃーきゃー笑いながらタミャは父の頬にぶちゅっと口付けを落とした。微笑ましい光景である。
「そうだ、色薄いやつ」
「え、おれ?」
眉を寄せたシビアな顔でオケブノが拓真を指差したので、問い返した。と言っても、七歳の子供の精一杯シビアな顔は下手すればコミカルにしか見えない。
「タクマって呼んでね。何?」
「母が用があると言ってたぞ!」
彼の背後まで見通すと、ちょうど女性が幕の隙間から手招きしている。暗がりの中から浮かぶ手の妖艶さに一瞬ドキリとしつつ、振り返る。サリエラートゥは無言で顔を顰めたが、「行って来い」と手を払った。
報告などは戦士三兄弟に任せることにして、拓真は幕をめくった。
小型の松明を持ったルチーが菩薩の微笑みで迎え入れる。
「いらっしゃいまし。どうぞ」
挨拶も短めに、彼女は踵を返した。腰に巻かれたワンピースと同じ柄の布がふわふわと宙になびいている。
ルチーの周りだけが炎によって淡く照らされるので、影に取り残されぬよう、その背にぴったりくっついた。
奥の寝室に入り、壁際までそっと近寄った。枝編みのベッドフレームの上にシーツを敷き詰めたこの家唯一のベッドは、体調の優れない者に優先的に使わせるのが決まりだそうだ。
この集落の家はほとんどが一室のみを寝るスペースにあてがっている。大人も子供も客も全員、同じ部屋に詰め込まれるのが普通なのだ。巫女姫の家だけが例外的に来客用の寝室を多く抱えている。
戦士が合宿訓練時に溜まる兵舎や家庭を持たない人用の共同住居でさえ、寝室を分けたりしない。
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