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敢えてこの習慣に理由をつけるとするなら「みんな一緒の方が楽しいから」だと聞いている。
「なかなか洞窟から戻らなかったので様子を見に行ったらこの通り。何とか一人で引きずり出しましたわ。軽いと言えば、軽いのですが」
ルチーはベッドに横たわる青年を指した。
曰く、外部から嫁いできたルチーは集落民と違って強すぎる神力にあてられることも無いという。それゆえ巫女姫が傍にいなくても滝に近づけるらしい。
「できれば引き取っていただきたいのですが、無理にとは言いません。起こしてから、少し様子を見てくださいな」
「お安いご用だよ」
拓真は近くにあった枝編み細工の椅子を取った。椅子を前後逆にして腰をかけ、背もたれの上に腕を組んでもたれかかる。
背後からは、ふう、と大げさなため息が聴こえた。
「まさか姫さまが、お気に入りの殿方の一大事で使い物にならないとは存じませんでした。以後、気をつけますわ」
「え? えーと、はあ、うん」
突拍子も無い呟きに驚いて振り返った。が、既に彼女は寝室を後にしている。部屋を仕分ける幕がパタンと元の位置に落ちた。
(ルチーねえさん今すごいこと言った気がするけど……深く考えない方がいいのかな)
――滝神の巫女姫を家から追い出すだけの何があったんだろう。お気に入りの殿方って……。
そして彼女は松明をも持っていってしまったので、部屋の中は幕から漏れる光以外はほぼ真っ暗になった。これでは眠りから覚めても、覚めた心地がしなさそうだ。
(まーいっか。前に洞窟で寝泊りしてたくらいだからこの程度で混乱しないよね)
とりあえず楽観した。
次いで拓真はこの頃携帯している自作の投槍器スピアスロアーを腰帯から外して手に取った。かつて中央アメリカ一帯で使われていた「atlatl」という道具を再現した代物だ。素手よりも遥かに速く・遠く・的確に槍を投擲できるのが利点である。
元々拓真の腕力は集落の男性に比べて劣る。なので素手で投げるダメージ重視の重い槍よりも、投槍器で軽めの槍を投げることを選んだ。ここでは弓矢を作る技術は北の部族に遅れを取っているらしく、主に槍や銛の方が一般的に使われている。
(みんなが接近戦派なのもあるけど)
滝クニの戦士たちが遠くから矢を浴びせたりするよりも殺傷能力が高い槍を好むのはつまりそういうことだ。
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