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「大っぴらに言えばそうなる。地球でアジアで日本で関東だけど、そういうのはわかりにくいだろうから省く。そんなことより訊いていいか、巫女姫?」
「何だ、ヒサヤ」
「さっき……アンタの水浴び……に、立ち会った時は言葉が通じなかったのに、何で今は通じるんだ?」
「あ! おれもそれ知りたい!」
気が付けば拓真はベンチから立ち上がっていた。興奮して、ついサリエラートゥに詰め寄ってしまう。
彼女は特にたじろいだりしなかった。
「それはおそらく神力のおかげだ。滝神さまの内に居る限り、思考や発言に使う言語が総て通じ合うようになる」
「ええ? じゃあこの洞窟から出たらまた通じなくなるの?」
落胆に肩を落とし、拓真は再びベンチに腰をかけた。
「そうだな。此処で生活して行くには、なんとか我々の言葉を覚えてもらうしかない」
「まず、生活する必要があるのか? 生贄なんだろ」
そう問い詰めた久也の声は冷ややかだった。しばしの沈黙が続く中、どこか近くで、ピチャン、ピチャン、と水が降る音が響く。
(あーあ、ダメだよ久也、そんなに女の子睨んじゃあ)
拓真は本題と離れた路線で思考していた。
朝霧久也という男は、顔立ちが整っている。しかも美形と精悍の中間みたいな、いいトコ取りでずるい感じにイケメンなのだ。一見クールで頭が良く、黙っていても話していても女子にはモテる。問題が一つだけ――目付きが悪いのである。
性格とは無関係に元から目元の印象がキツかったりするのだが、シビアに話している時など、本人も気付かない内にもっとキツくなる。それで嫌われることは無いが、逆に相手が「もしかして私って嫌われてる?」と勘違いすることが多々ある。
(香かおりちゃんも久也のことは昔から知ってるのになんか苦手っぽかったし)
きっとそういうことなのだろう、と拓真は勝手に想像している。
幸いなことに、巫女姫サリーは目付きぐらいでは動じない女の子だった。
「生贄になると言っても、すぐにその身と命を丸ごと投げ出す必要は無いぞ」
「どういう意味だ? ……いや、質問を変えよう。アンタらが神に捧げる生贄には、どういう理由がある? 古代文明だと、不作や天災が続くと、人々は神が怒っていると解釈して、その怒りを鎮める為に生贄を捧げたりしたんだが」
サリエラートゥは魅惑的な脚を組み替えてから答えた。
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