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「それよりおれは久也の話の方が吃驚だよ! 滝神と話ができるなんてマジ吃驚だよ!」
「いや、俺も吃驚した。どうも、ぼんやりと全体像が見えてきたな」
「うん」
現在の北の部族の長、藍谷英だった人間が人柱を集めて元の世界との境界をこじ開けようとしているのが確定した。その手段を人魚から聞き、今まさに実行しようとしているのだ。
「幻覚でおびき寄せているのは、もしかしたら滝神みたいに『生贄は自分の自由意思で』みたいな縛りがあるのかもな」
「英兄ちゃんはどうやって人魚と話なんてできたんだろ」
「取引用に餌でも持って行ったとか」
久也がそっけなく答えた。
「エサ、ってやっぱり……」
人喰い人魚を喜ばせる手土産は当然、食糧(人)であるはずだ。拓真の胸中でモヤッとした気持ち悪さが渦巻いた。息を吐いて、暗闇の中で目を閉じた。
「二十年の孤独で人格が歪んだのかなぁ」
「大いにありうる」
「ねー、久也。異世界に飛ばされて――帰ったら自分の知ってる人がみんな先に年取ってたのと、帰ったら自分の方がもっと年取ってたのと、どっちが悲しいんだろうね」
想像するだに恐ろしい。閉じていた瞼をおもむろに開いて、藁の天井のある方を見つめた。
「さあな。アイツ、気付いてると思うか? こっちとあっちで時間の流れが違うって」
「わかんない。気付いてなさそう……」
「ただ言えるのは、たとえ俺たちにも帰る方法が開かれたとして、それを犠牲も出さずに行えるとして……近い内にそれを掴む決断をしないと、どんどん『ずれ』が広がるってことだな」
「そう、だね」
肉体年齢の違和感、移り変わる日常、離れてしまう心の在り処。英ほど極端でなくとも、内から変わってしまうのを止められない。
改めて綴られるあまりに冷たい現実に、拓真はまともに返せる感想を持っていなかった。
(こういうのを、情が移ったって言うのかな)
帰っても帰れなくても、どちらを想像してももの悲しい気分になる。
故郷に帰って逆カルチャーショックを乗り越える自分も、或いはあっさりこちらでの日々を忘れてしまう自分も、何故だか両方とも受け入れがたい。だからと言って異世界に残って、育ててくれた祖父母や友達の顔を忘れてしまう自分もいかがなものか。
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