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選択肢が閉じられていればうまく順応できる自信はあるが、こうして選べる余地があると、普段それほど悩まない頭も音を立てて軋みを上げる。迷いが、生じる。
――早く、早く突破口を探さないと。早く決めないと、後戻りが出来なくなる。
選択肢は本当にあるのだろうか。
英がやっているような無茶な方法が成功したとしても、きっと自分たちには真似できない。
未練がましい己を恥じた。どうして、こんな中途半端な希望を見せ付けられなければならない。いっそ帰る方法はどこにも無いのだと神に言い渡された方が良かった――
「もしもこのまま元の世界に戻れなくても、生贄で内臓バラバラ・エンドだけは、なんとか避けられるかもしれないぜ」
途端に、話題は明るい方へと転じた。
「本気でそう思ってる……?」
「可能性はゼロじゃない。誰も探してないだけで、案外やり方は単純だと俺は踏んでる」
根っからの現実主義兼ペシミストな久也が、何かに挑むように言い切った。不意打ちをくらった気分だ。これだけごちゃついた状況の中から、他ならない彼がモチベーションを見つけていたとは。
それを聴いて、自分も吹っ切ろうと奮い立った。
ウジウジ考えるのは、らしくない。
「ならなんとかしようよ。うん、それがいい! 頼んだ!」
深夜だというのに、拓真はパッと目が覚めた。シーツを素早くどけて起き上がる。
「おいおいおい、待て、どこ行く気だ」
「よく考えたらおれ、全然寝てる場合じゃなかった。だって英兄ちゃん、攫った人たち殺す気なんだよね? もう手遅れかも。行かなきゃ」
「深夜に大自然をうろつくのは確実に自殺行為だろーが! 人を助けるどころじゃない!」
叫ばれた正論に咄嗟に動きを止め、項垂れた。
それくらいの判断ができる程度には頭が冴えている。
「うう?ん、まったくもってその通りだね。しょうがないから、作戦会議だけしてくる。サリーとバロー辺りはきっと寝てないよ」
そう答えると、久也は観念するのが早かった。
「だったら一つアドバイス。未知の領域へ行け」
未知の領域とはつまり、滝神(タキガミ)さまの御座(おわ)す郷(くに)を出た外の世界のことだ。
「え。でも生贄が滝神の息のある範囲を出たら巫女姫が死ぬって話は」
二十年前の巫女姫、キトゥンバが変死した事件を引き合いに出して問うた。
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