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そう考えると何やら奴の臭いが漂っているような錯覚に陥り、ユマロンガは腕の肌が粟立った。何だ、この感情は。必要以上に意識している自分が気色悪い。
ふと、生姜汁を飲み終わったヒサヤが声を発した。何を言ったのか判然としないので、繰り返すようにとユマロンガは促す。一つずつ言葉の節を分解して聞き出し、ようやく通じた。
「そういえば俺、アンタとはあんまり絡んだことないな」
と、言ったらしかった。ユマロンガは顔をしかめた。
「絡むのは糸などであって、人間が絡まるのは男女の営み――…………とにかく、何かの言い間違いかしら」
「あ、そうか。そういう使い方は、しないんだな。えーと……あんまり、『関わった』ことがない」
「そういえばそうね。アナタの相棒の方はよく顔を見るのに」
「見せてる……から、だろ」
「……そういう言い方もできるわね」
そう返すと、ヒサヤは口元を手の甲で隠して笑ったらしかった。何がおかしいのかはさっぱりわからない。
「それで? 何か俺に訊きたいこと、あるんじゃ、ないか」
オゼイユの漬物を木彫りのスプーンで口に運びながら、さりげなく彼は問うた。
「え……」
不覚にもドキッとした。何故わかった?
この男、どうやら鋭いのは目付きだけではないらしい。そこもまた、気味悪さを増長させる要因にもなりうるけれど。
「別に訊きたいことってほどじゃ――」
「アイツが、夜の間に何処行ったのか、とか?」
ぐっ、とユマロンガは歯を噛み合わせた。否定するのも馬鹿馬鹿しく感じる。
「ええ。だって今朝にはもう戦士たちが一握りほど居なくなってて、残された者は戦の支度に没頭してる。斥候に行かせたんだって思うのは自然でしょ?」
と熱弁したものの、ヒサヤは「その言葉、知らない」と困ったように言った。
――ああ、もどかしい。
しかし諦めずに、五分以上もの時間をかけて「斥候」が何なのかを伝えた。それでようやくヒサヤは納得したようだった。
「斥候か。それは、仕方ない。集落の民は新しい場所、考えに、弱い。タクマは、違う」
考えに対して弱いとはどういう状況だろうかと腕を組んで首を捻りつつも、なんとなく言わんとしていることはわかった。
(確かにあたしたちは新しい物が苦手ね)
挑戦心に欠いているというより、たとえ挑戦したくなっても未知への恐怖や既知への甘えの方が勝ってしまうのだ。
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