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落ちた衝撃よりも、足首に走った激痛の方にすぐに注意が行った。反射的にさすって、折れていないかを確認すると、一応大丈夫そうではあった。
「とりあえず利き足じゃなくて良かった。でも骨にヒビ入ってたらどうしよう……」
そして他にも、左脇腹の皮膚が五センチほどジグザグに切れていた。深くは無いけれど、妙にじんじんしている。挫いた足とはまた別種な、しつこいタイプの痛みだ。
だが谷底に落ちてこれだけで済んだのだから、文句が言えるはずも無かった。
「化膿してアレになったりしないよね……はいけつ、はいけつびょー……敗血症?」
傷薬を求めて腰周りの革のポーチをまさぐった。中身は落下した時に思いっきり混ぜられてしまったようで、この暗がりの中では見つけるのに時間がかかる。
「あっ」
弾みで何かがポーチから落ちた。それを拾おうと手を伸ばすと、指先が冷たい窪みに触れた。濡れた土の中の定まった形の窪み、それは即ち足跡である。
拓真はそこに慎重に指を這わせた。
(これって、大型動物の足跡)
落下の衝撃も収まり、頭も落ち着いて来た頃合いだ。
やっと彼は、周囲に漂うそれに気付いた。
噎せるような獣の臭い。
(でも、一体何の獣?)
そう思考した瞬間、拓真は息をすることも忘れていた。
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