03.その分だけ体重が軽くなる

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「我々の滝神さまは、『水』に神力を宿して集落に広めている。さすれば少ない水でも作物や果物はよく育ち、野を駆ける動物や魚たちが肥える。そうして集落も栄えることができる……が」 「神力を支えるのが生贄ってこと?」  拓真が再び会話に参加した。 「察しが良いな。滝神さまの神力が大地を支え、集落が大地から恵みを賜る。神力が尽きない為には、新鮮な人間の生贄が必要だ。しかしそれには条件がある」  膝上で両手を組んで、サリエラートゥが続ける。 「集落の民が生贄だと、力は還元する。神さまから得た力に育まれたのだから、それを返しても、神力は元々の量に戻らない。大地を栄えさせる段階で減っている」 「……それで、外部の人間から新しい力を調達するんだな。話が見えてきたぜ。まだ、異世界である必要性がわからないけど」 「生贄が最も強い力を与える条件は、自らそれを望むことだ。神への供物となることを至上の歓びと認めている者こそが最高の状態の生贄だが、それに近いのが『死を強く望む者』だ。詳しい仕組みは私にもわからないが、つまり、滝神さまの生贄候補を引き寄せる為に、自ら命を絶つ人間が多く居る異世界の場所が、この滝と一方的に通じている」 「じゃあ自殺の名所で死にそうになっていた俺らが世界を渡って来たのはそういうことか。で、もしかして、本気で望んでいなかったから、最高の生贄じゃなかったから、生きたままに連れて来られた……ってことか?」  久也がそう訊ねると、サリエラートゥは考えるように目線を逸らした。 「私は滝神さまの代行者ではあるが、意志が総てわかる訳ではない。多分、そういうことだと…………思う」 「えー、わー……むー?」  途方も無い話なので、拓真はただ理解しようと必死だった。知恵熱を起こしそうになり、意味不明な唸り声ばかり出る。 「WHO(世界保健機関)によると、地球での自殺率は一年に約百万人だと聞いたことがある。そりゃあそこらの近隣の集落と通じるより、地球と繋がった方がよっぽど収穫がありそうなもんだな」  久也が悲しい現実を無感動に指摘する。 「百万? そんな大それた人数、想像も付かないが……そんなにたくさんは現れない、せいぜい一月に二・三体くらいだ。そもそもこの集落の人口が、五百人にも満たない」  サリエラートゥは洞窟の天井をしばらく見つめ、そしてまた異世界からの来訪者たちを見つめた。
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