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「わっ」
そのまま尻餅付いた。驚くべきことに、着地した地面は雨に濡れた草地などではなく、たっぷりと塗れた泥土だった。
しかもいつの間にか辺りは大分明るくなっている。落ちた地点よりも谷が浅くなっているのか、陽の光が此処まで入り込んでいる。
――その程度で驚いている場合ではなかった。
何度目かの現実逃避で、目線は正面ばかりを避けて周囲を彷徨っている。十秒もすれば諦めもつき、拓真は恐る恐るそれを認識した。
三メートル前にまたなんとも巨大な生き物が居る。
地を這う四本足の爬虫類。頭の上に寄った小さな目と凶悪そうな顎、口からはみ出る尖った歯。その胴体はずっしりと太くて重そうだ。すぐ後ろの水場から這い上がってきたのか、独特の硬そうな皮が濡れて見える。
コイツには、動物園ですら出会えた記憶が無い。ネットの写真かドキュメンタリーで見知った程度の付き合いだ。恐竜の時代より以前から種が続いて来たと言われる、旧き動物。
――ワニ。
強いて言うなれば見た目はナイルクロコダイルに似ている。
無意識に、唇の隙間から乾いた笑いが漏れた。
「死のう」
拓真は自分が何を口走ったのか自覚していなかった。
それだけ気が動転していた。
今から体験するであろう数秒、数分、それとも数時間の恐怖に耐えなければならないくらいなら、もうこの時点で人生を自ら終わらせようという考えが過ぎったのだ。
水分不足気味でなければ既に失禁していた。
(もう、なんなの)
これ以上に恐ろしい想いをする日は来ない、だと? どころか、同じ日に立て続きになんてザマだ。
嫌な遭遇ばかりだ。
拓真が戦意喪失したそんな時、本日で最後のビックリ猛獣が姿を現した。
ごぽ、と水場から泡が立ったかと思えば、海草の塊に酷似した黒い山がぬっと水面から突き出たのである。
それはどう見ても人間の髪の毛――或いは頭頂部――にしか見えないのだった。
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