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――この憎しみが生きる原動力だ――!
*
「……マ、タクマ! おい!」
「ぶわっ!?」
激しく揺さぶられて目が覚めた。やめてやめて、と揺さぶる本人に訴えかけ、揺れがやっと収まる。視界はその十秒後にクリアになった。
「よかった……。最初に見つけた時、死んだのかと思ったぞ。ヒサヤになんと詫びれば良いのか、本気で悩んだ」
巫女姫サリエラートゥの美貌が間近にあった。質感たっぷりの黒髪が頬にかかってくすぐったい。眉間に思いっきり皺を寄せていても美しさは大して損なわれないのは、素直にすごいと思った。
「おれの落ち度だし、久也はこんなことでサリーを怒ったりしないよ」
なぜかそんな風に弁解していた。
「ああいや。そういう問題じゃなくてだな。一体あの後何があった? 私が合流した時には皆慌てふためいていてひどかったぞ」
巫女姫の背後には戦士たちが十五人ほど控えていた。その中には、かの三兄弟の心配そうな顔もある。
「えーと、イロイロですよ。聞いて下さいよお姫さま、もう、何十年分も疲れた感じ」
「まずは落ち着け。口調が大分おかしくなってる」
「あ、そうだね」
拓真は深呼吸して起き上がった。辺りを見回し、記憶の断片と現在地を照らし合わせてみる。木々の生え際や岩の形からして、どうやらここは最初に落ちた地点と人魚と遭遇した河の中間くらいに思えた。
次に、身体中の痛みがいくらか和らいでいることに気付いた。肩など噛まれた箇所の出血もすっかり止まっている。
「サリーが神力で助けてくれたの?」
「ああ、発見次第すぐにな。そうでもしなければ手遅れになりそうだった」
「そりゃーそうだったろうねー」
自分でも吃驚するくらいのんびりと答えてしまった。見知った顔に囲まれた安心感からだろう。取り囲む仲間たちはと言うと、不審そうに見つめてくる。
「笑いごとではない。獣の痕跡があったぞ、遭遇したのか?」
拓真と目線を合わせるようにしてアレバロロが屈み込み、訊ねた。
「うん。ヒョウとワニと蛇と人魚、で全部かな」
何気なく応じると、戦士たちが色めき立った。
「ま、人魚(マミワタ)!?」
「信じられん。遭遇して無事で済んだなどと!」
「わあああ! ダメだ、彼はもう一生呪われてしまった! 姫さま、悲しいと思いますが離れて下さい!」
他にもただならぬ動物を三種挙げたのに、集落民は人魚ばかりに注目した。
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