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(ていうか最後の君! 「一生呪われた」とかヤメテくんない!)
まだ名前を憶えていもいない、頬に母斑のある二十代半ばの男の喚声に少なからず動揺した。せっかく人魚に食されるのを免れたのに、後になって他にも不安要素が浮かび上がるとは。考えたくない問題である。
「落ち着け! 気持ちはわかるが、タクマの話を最後まで聞かずして、何の結論も付けられない」
「サリー…………結論って、おれを隔離するとかそういうんじゃないよね……?」
さんざんな目に遭った後でのまさかの対応に、気分はダダ下がりだ。
「隔離? 必要ない。たとえ怪獣の牙や爪に穢された身であっても、滝神さまは必ず清めて下さる」
「な、なら良いんだけど」
滝神の巫女姫が腰に手を当てて自信満々に答えるのに対し、拓真は苦笑しか返せなかった。やはり彼女も、穢されたと思っているのか……。
「では、詳細を話しなさいな、タクマ」
常時穏やかなアッカンモディが珍しく両目を開いて言った。
「わかった。ヒョウとやり合った経緯は省くね。逃げ切ったつもりだった後のことから……」
アァリージャの肩を借りて立ち上がり、拓真は己が経験した出来事と、聞き知った事柄をなるべく丁寧に思い出して語った。人魚が好きな食べ物をお代に、この世界の仕組みについて話してくれたこと。滝神が久也に言ったように、世界の境界を逆流する方法があること。それを果たすということは多くの人の犠牲を意味すること。
話している間、サリエラートゥや戦士たちは時折相槌や文句を挟んだりして聞き込んでいた。
(でも、一つだけ許して)
ひとしきり話し終えた後、拓真はため息をついた。言わないことは一つだけある。
人魚から聞いた話と自身の体験を重ね合わせて、藍谷英がどういう心境で集落を逃げ出したのか、わかってしまったのだ。わかっても、話すことはできない。
サリエラートゥたちにとって集落を去って結果的に当代の巫女姫を死なせた英は「悪」である。どういう風に説明しても、その解釈が変わるようには思えなかった。
彼らの生活には生贄が必要で、これから生贄になりうる人間がどういう心持ちであるのかは、きっと共感し難いだろう。
拓真の突然の沈黙から深読みする人はその場におらず、全員が各々唸りながら情報を咀嚼しているようだった。気を取り直して、続きを話した。
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