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「それでね。あっちにトンネルがあるって人魚たちが言ってたよ」
「トンネル?」
すぐ隣のアァリージャが期待を込めた声で訊き返す。
「そ。北の領域に通じてるってさ。英兄ちゃんは昔、そこを通って北へ逃げたんだ。そこにあるって知らなければ見つけられない場所にあるらしいんだけど」
彼が何年もこの谷で独り生き延びながら掘り続けて繋げたトンネルだとは、今は言わないことにした。
「これで奇襲をかけられるかも」
「しかし相手も見つかるのを予測して道を塞いでいるのではないか?」
アレバロロが疑問の形に眉を吊り上げた。
「その時はその時だ。奴らが橋を落としたからには我々を誘導しているという線もあるが、これほどの谷をわざわざ降りてトンネルに至るとは思わないだろう。人魚の助言が無ければ素通りしてしまうし、まさか奴らも我々が人魚と物々交換をするとは思うまい」
「確かに、本来ならば谷を降りようとはしませんでしたね。タクマが率先して闇に飛び込み、その直後に彼を助けるという目的が生じて、初めて我らは踏み出せた。敵方もこの展開は予想できないでしょう」
「兄者がそう言うなら間違いない! 行こうぞ!」
サリエラートゥが賛成の意を表した後、アッカンモディとアァリージャがそれぞれ意見を呈する。アレバロロやその他の戦士たちの同意を得るにそれ以上の時間はかからなかった。そしてアレバロロはこう指摘した。
「姫さま、連れてきた戦力の内、まだ半数以上は谷の上に残っています。おいおい降りてくる者もいれば、決してその場を動こうとしない者もいますが」
「わかった。少しだけ待とう」
その時間、三十分前後。谷を降りてくる人間と合流しつつ、戦士の何人かをトンネルの場所を確認しに行かせた。
ラフィアパームの平べったい木々が何列も並んだ場所の奥に、大きな岩棚が潜んでいる。岩の隙間の深く狭い陰の中に、入り口があった。
「待って。おれが先に入る」
「タクマ、それは許しかねるぞ。お前はもう今日は十分働いた、アァリージャに行かせればいいだろう」
巫女姫は即座に反対した。
「できればおれもそうしたいんだけど、一人分しか通れない狭さだったら、一番体格の小さい人が行くべき――」
「その理論で行くなら、私が行くべきであろう」
「姫さま、いけませんっ!」
「何がいけないと言うんだ。事実、私が一番肩幅も小さい」
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