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「いけません、巫女姫はあなたさましかおりませんのだ」
そのまま論争に発展した。
拓真は喧噪に構わずに手を伸ばした。ひんやりと濡れた岩肌に、得体の知れないぬめりを感じる。
奥からは切なげな水音が遠く響いている。
(英兄ちゃん……同情するよ。ううん、同調してしまう――)
谷底で尋常ならぬ日々を過ごして、人が変わってしまったのだと、わかっている。
彼はただただ、か細い正気を手放さぬように必死だったのだ。
わかっていても、許すという選択肢はきっと何処にもない。女性をこの闇に誰よりも先に踏み込ませるのもあり得ない。
何故なら――
トンネルからは死の臭いが漂っていたからだ。
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