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「いいんだよ。ゴタゴタが終わったら拓真にでも訊いてくれ。それより、奥の祭壇まで入るのは賛成できないが、今すぐに手伝って欲しいことならある」
「任せて」
承諾を得たのと同時に彼女の手首を掴んで、洞窟の入り口にまで連れ込んだ。ここでなら雷雨の勢いに晒されなくて済む。
大急ぎで久也は滝神と対話する手筈を要約して説明した。
「で、手伝って欲しいのは、例の塗料での祝詞? だ」
「………………………………そう」
突拍子もない話をしてしまった所為か、聞き手のユマロンガは放心しかけている。
「すごい間だな。嫌なら、無理にとは言わない」
「別に、無理とは言ってないでしょ。ちょっと信じられないと思ってただけよ」
「まあ俺も未だに信じ切れてないしな。やってくれるか?」
「いいでしょう。服脱いでそこに膝立ちになって。滝神さまへ奉る紋様は描いたことないけど、内容は憶えてる。戦士のならよく弟に描いてるもの、そう勝手は変わらないはず」
久也はすぐに言われた通りにして、塗料の入った筒をユマロンガに手渡した。早速彼女は蓋を開けて指を濡らしている。
全く慣れとは恐ろしいものである。これが元の世界であれば、何のプレイが始まるのかと突っ込むか歓喜すべきところだ。
「つっ」
何の予告もなしに柔らかい指が肌の上を滑った。伝わる感触や体温を気にしている間もなくどんどん赤(レッド)い黄土(オーカー)が塗られていく。
流石に、戦士の紋様を描き慣れているだけあって手際が良い。数分後には、ほとんどブレの無い紋様が仕上がっていた。
(指先が震えてるのは伝わってたけどな)
それを制して、短時間でこのクオリティ。頼んだのは正解だった。
「どう?」
「カンペキ。言うことなしだ、マジでありがとう」
腕を裏返したりふくらはぎまで確認したが、妙な点は何処にも無い。
するとユマロンガがほっと胸を撫で下ろすのが見えた。緊迫した状況下でなんとかやり切った達成感と安心感からか、彼女は一気に饒舌になった。
「親族以外の男の素肌に触ったのは久しぶりだわ。なんていうのかしらね、ちょっと気持ち悪かった。ヒサヤさん、やっぱりあなた、もっとご飯食べて陽に当たった方がいいんじゃない? 骨の周りに肉が足りないし血管も透けてる」
「余計なお世話だ! ていうかこの暗がりでよくそこまで見てたな」
「だって、かみなり……が……」
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