32.stagnant

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「臭さは気にならなかった。が、息苦しいと思ったことは何度かあったな」  キチャンガチュイがふと漏らすと、周りの戦士たちの注目が集まった。 「しかし一応向こう側からも空気の流れはあったし、急に壁が崩れたりしない限りは平気なはず」 「よし。では大体十五人で中に入るとしよう。枝分かれの部分では二小隊に分かれて、それぞれアッカンモディとアレバロロが率いるように。人選は任せる」  彼女の分析を受けて、巫女姫サリエラートゥが決断を下した。指名された二人は承諾し、少々話し合った後、部隊の人員を選んだ。 「では、ルング=ワ、ントンガニ、ナマユニ、ウフゥル、ンゲレカ、そしてムヲンゴゾ。お願いしますね」 「キチャンガチュイ、ンヤカ=スウィ、エマラブピナ、イデトゥンジ、ビフムロ、アァリージャ。ついて来てくれ」  アッカンモディとアレバロロがそれぞれチームを構成する者を選んだ。呼ばれなかった拓真は、やんわりと抗議した。 「おれ、モディについて行ってもいい?」 「あまり気が進みませんね。あなたは休んでいた方が」 「そこをなんとかお願い! 絶対足手まといにはならないから。『界渡り』だった、北の部族の長とは抗えない因縁って奴があるんだよ。今行かなかったら、おれは一生後悔する」 「……仕方ありません。その決意を尊重しましょう」  糸目のアッカンモディが僅かに目を見開く。その瞳にちらついていたのは、心配の他に、信頼の光のように見えた。それだけで胸の内が温まる。  できれば全身まで温まって欲しかった。 (これも思い込みかな。それとも貧血のせいかな)  手足は小刻みに震えていた。雨雲が育って気温が下がっているのも確かだが、それだけじゃない気がした。 (ううん、がんばろう)  こうしている内にも着々と戦士たちの支度は整っている。彼らに倣って拓真も軽量化を図った。服は下半身のみを残し、実用性に乏しい装飾品の類を全てこの場に捨て置いて、余った荷物は居残る戦士たちに預ける。  そうして数分間隔で一人ずつ入り口を通った。まずはアレバロロ含めた七人、次にアッカンモディ含めた八人が順番にトンネルに入っていく。穴の中へ登る寸前に、巫女姫が一人ずつに言葉をかけたり神力を浴びせたりしている。  拓真は最後尾から二番目で、自分の番が回ってきた頃には天からは大粒の雨が降っていた。 「すまない」
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