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誰かが手を差し伸べている。顔を上げると、空洞の中で松明が四本ほど点いているのが見えた。
拓真は差し出された手の手首に指を巻きつけて引っ張り上げてもらった。向かい合って目線が合うと、明かりの中で相手の顔を確認した。
「ありがと、ウフゥル」
「おうよ!」
戦士ウフゥル、細面でギリギリまだ二十代の長髪の男だ。気さくで誰ともすぐに友達になれる良い奴だが、稽古に対してサボり癖があり、酒が入ると喧嘩っ早いのが短所である。
今度は拓真が後ろを振り返ってしんがりのントンガニに手を貸した。こちらは長くて量の多いフサフサの睫毛が印象的な三十路男性である。ついでに言えば、魚を捌くのが非常に巧い。
「ントンガニで最後だな。全員着けたか」
一本道だったとはいえアレバロロが一度頭数を確認する。
十五人揃ったとわかると、小隊に分かれた。これから先の通路は枝分かれしているからだ。アレバロロ率いる隊は左に、アッカンモディ率いる隊は右に進むことになった。
隊は縦に列を組んで黙々と歩き出した。ひたすら、何十分もただ歩く。
鼠の鳴き声やどこからか響く水音だけが響く。
そんな静寂の中、拓真は一層異臭が気になってきた。ついつい足元が覚束なくなる。
「おい。しっかりしろ」
「さっきから大丈夫っすか? 人魚の呪いが実を結びましたか?」
「ほっとけって。こいつが自分で足手まといにはならないって言ったんだぜ」
先を歩く何人かが気付いて振り返ってくれた。この暗さでは顔ははっきり見えないし、声からは誰が誰なのかわからない。元々、隊の半数はよく知らない人間で構成されているのだ。唯一人、人魚の呪いを口にした人間は、先刻もそのことを気にしていた頬に母斑のある若者だろうと思った。
「だって、すっごい臭いんだよ。死んだ魚に腐ったチーズをかけてもっと腐らせたみたいな。みんなはなんともないの?」
「知らん。気のせいじゃないのか」
戦士たちは次々と否定した。段々とこっちの頭がおかしいみたいな流れになりかけて、拓真は口を尖らせたが――
突然、前方から短い悲鳴がした。緊張が走り、顔を見合わせること一秒。すぐに戦士たちは列を崩して前へと走り出した。
「なんてことだ……」
アッカンモディの呻き声が続く。
追いついて、松明が照らす先に目の焦点を合わせた。
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