04.組み立て式

2/6

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/217ページ
「ところで、さっきって言ったけど、まさかアンタが手当てしてくれたのか」 「そうだ。私は滝神の巫女姫として多少は神力を使える。だから洞窟の外でも応急処置で間に合ったのだ」 「サリーって凄いんだね! 久也を助けてくれてありがとう」  心のもやもやを強制的に追い払って、拓真が発言した。 「元はと言えば私が傷つけたのだから感謝されても困る。単に責任を感じての行動だ」  その時、久也が微妙な表情になって顔を逸らした。 「もう一つだけ訊いていいか、姫」 「勿論だ」 「ロングピッグについてどう思う」 「何だそれは、『長い豚』?」 「カニバリズムの俗称だ」 「かにば――……?」神力が働いて語彙を脳内で変換しているのだろうか、サリエラートゥが考え込むように止まった。「ああ、食人の習慣か。そんな背徳、犯せるはずがなかろう。気色悪い」 「……そうか。それはよかった」  その返答に、久也が胸を撫で下ろした。隣で一連の展開を見てた拓真が不思議に思って眉根を寄せる。 (何に安心してるんだろ? ていうか何を心配してたんだろ)  目が覚めた場所がキャンプファイヤーの真上だったならまだしも、洞窟だ。原住民に捕まった=食べられる、なんて安易な方程式が聡明な久也の中で成り立ったとは考えにくい。何か別の考えがあったのだ、きっと。後で訊いてみよう。 「そろそろ傷の具合を確かめよう。この腱を解くから手伝ってくれないか、タクマ」 「いいよー。その包帯って、何かの動物の腱だったの?」 「ああ、確かこれは――」 「雑談は後で良いから、早くしてくれ。暗い場所で複数の人間に囲まれてると息が詰まる」  顔を手で煽ぎながら久也がどこか疲れた様子で訴える。  確かに彼は他人と必要以上に物理的な距離を詰めるのが苦手だ。満員電車や新宿駅で苦しむくらいならタクシー代を奮発した方が良い、などとよく口で言っている。最終的には迷った末に代金が勿体なくなって忍耐を強いられているけれど。  拓真は話を打ち切り、サリエラートゥと手を合わせて、巻かれた腱と薬草をせっせと取り払った。 「さすが祭壇の前に居ただけあって、大方塞がっているな。この分なら少しずつ動いてもいいだろう」 「そうなの? まだ見た目グロいけど」
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加