6人が本棚に入れています
本棚に追加
33.moralization
意識が戻った後、石の破片に埋もれているのだと自覚するまでに、三十秒はかかった。
顔面に当たる土の感触。背中や脚の裏を潰さんとする硬い重み。こめかみ辺りでは生温かい液体が髪を濡らしている。
とりあえず生きているのだということだけはわかった。
(揺れ、終わった……?)
五体満足と断じて良いのか――何かまだ違和感が残るが、それ以上考えるよりも先に拓真は体勢を正そうと試みた。
ダメ元で起き上がろうとする。しかし筋肉が軋むだけでびくともしない。
背中にかかる石の欠片は絶妙に重なり合っているらしい。上から誰かが一個ずつ剥がしてくれない限り、容易には抜けられないようだ。
と言っても左右に転がるくらいの余裕はあった。せめて仰向けになってみようと考え、今度はもぞもぞと動いてみた。腕などを擦ったり圧迫したりと地味に痛い想いもしたが、なんとか裏返ることに成功した。
欠片の隙間から光が入り込んでいる。
この空間はこんなに明るかっただろうか。松明の数が増えたとしたら、理由が気がかりだ。
声を出してみた。
――誰か――
(ん?)
再び違和感を覚える。
――誰か助けて。動けないんだ――
何がおかしいのか、その時点で気が付いた。声を出しているつもりなのに、聴覚はさっきから何も認識できていない。声帯を損傷している可能性もあるが、そうではないだろうと率直に思った。
何も認識できていないけれど、静寂に感じているのとは違う。さまざまな音が反響して混ざり合っていて、むしろうるさい。洞窟の中の音響環境のせいかもしれないし、頭を打ったせいかもしれない。たとえるなら、酒の飲みすぎで何もかもが大音量に聴こえ、耳の中で「ザー」って音がずっと続いて人の話が聴き取りにくくなるあの現象だ。
とにかくこれでは個別に声や音を識別するのは不可能だ。
(頭を打ったせいなら、おれの声は誰かに届くはずだけどなあ)
応答が無いのは何故なのか、そのことに意識を向けて――
「はなせ!」
一人の声が耳に届いた。この低くもハスキーな響きは、ナマユニに違いない。随分と切迫した声音だ。
耳をそばだてる。続いて、他の仲間たちの怒声が聴こえた。その間には聴き慣れない喚声が混じっている。
「貴様ら、どうする気だ!」
「――――――――――――」
「死しても我らの同胞だ! 連れて行かせはしない!」
「――――!」
最初のコメントを投稿しよう!